米国の投資情報サイト“Seeking Alpha”に掲載された記事を紹介します。
著者は金融機関などに所属する専門家ではありませんが、チャート読みや市場心理の分析記事で1万人を超えるフォロワーがいます。
Thanksgiving Edition: Long-Term Investing Rules And Suggestions
サンクスギビングによせて:長期投資のルールと提案
「投機」とは異なる「投資」を行う上での心構えと身辺整理について語っています。
なかでも面白いのが、「クレジットカードを使うな」「遊びは控えろ」という規律正しい姿勢を強調しながら「タバコ会社の株を買え」というリスクテイクに踏み込んでいるところ。
簡単にまとめていきます。
「金融衛生」という考え方
著者は“financial hygiene”という言葉を使います。
一見わかりにくいですが、ニュアンスとしては「長期投資を行うにあたり、お金の置き所や使い方に標準的な『衛生観念』をもちましょう」というような感じ。
・クレジットカードで分割払いをすると20%の利息を払うことになる
・生活費の補填をキャッシングに頼らない
・ローン払いを延滞するな、信用情報に傷がつく
良くない習慣を排し、ドーピングをやめてまずは健康な家計となることための「金融衛生」運動。
これは一片の疑いもなく良いことです。
古くからキャッシュレス社会を実現している米国ならではの導入といえます。
そのうえで、著者はより長期投資に直結した習慣づくりへと踏み込んでいきます。
読み進めるうちに順調に説教臭く、うっとおしくなっていきます。
・遊びを少し控える
・友人と飯を食う時は、自宅に招いて作ってもてなせ
・確定拠出年金を最大限利用しよう
・住宅ローンはなるべく繰り上げよう、払い切ったらローン払いの分は投資に回そう
・車を買うなら中古で、買い物はセールを待つ、不要なサブスクリプションは切る
・2~3週のあいだ支出日記をつけてごらん、きっと驚くから
「あなたの友人や、家族だってあなたに正直に伝えてはくれない。だから私が成り代わっていやなことをずけずけと言うんです」
著者はこう書いています。
親切な方なのです。
とはいえ「人生をつまらなくさせる投資」は持続可能ではありません。
できる範囲で投資資金を増やすための、着目点リストとして活用するとよさそうです。
長期投資とは「窮地にある優良企業を狙いすますこと」
著者の考える長期投資の目的とは、
優良企業の株式を永久保有し、
それから発生するキャッシュフローで生活できるようになる。
ということです。
これだけで、必然的に投資手法が決まっていきます。
・配当あり企業に限定(リスクを引き受ける対価を支払う企業)
・配当は、企業の「収益の質」を示すシグナルとして重要である
・信用取引はしない
・定期的に、着実に資金を投下する
・対象とする企業のビジネスに満足して投資する必要がある。投資する理由をごく手短に説明することができない企業には投資しない
・一時的な問題が発生している優良企業に投資する
配当を支払わない企業には強い成長志向があり、それが巨大なリターンをもたらす可能性がある半面、収益を上げるまでにたどり着けず消えていく可能性もあります。
個人の資産形成という観点からは、こうした企業に資金を投下することは「投機」に近い行動となってしまうわけです。
あげられた項目のなかで、最も重要なのが最後の「一時的な問題が発生している優良企業」という条件です。
この項目のとらえ方しだいで、投資する企業が決まってきます。
著者は6つの例を挙げています。
・AT&T ・3M
・シェブロン ・アルトリア
いずれも、一時的な不祥事や商品トラブルなどで株価が低調になっている銘柄です。
企業本来のビジネスとトラブルの内容を把握し、ビジネス基盤を壊さない程度のトラブルであればそれは投資家にとってのチャンスになる、と著者は言っています。
タバコ会社が迎えているのは「一時的なトラブル」なのか?
このなかで、個人的にはアルトリアが迎えている試練だけは様相が異なるかもしれない……という懸念を持っています。
従来のタバコが先進国では近い将来全滅してしまうであろうことに加え、電子タバコにも強い規制がかかり、最終的には禁止されてしまうのでは……という点です。
ここはきわめて重要な点なので、著者の主張をよく見ていきたいと思います。
配当利回り6.74%を誇るアルトリアへの投資を、ナチスの記念品を買うのと同じように感じる方もいるでしょう。嫌だったら、次へ進んでください。
アルトリアは電子タバコ会社のJUULにあまりにも多額の資金を投資しました。
JUULは電子タバコが死につながるという健康上の緊急事態に巻き込まれました。しかし、本当に深刻な健康問題は「偽造カートリッジ」と「大麻の蒸気」によるものだと判明しました。
もう1つの問題は非常に現実的で、それはこどもたちにJUULが流行していることです。この点については、製造者たちは大いに懲らしめられなければなりません。
JUULはフレーバー付き製品を市場から撤去しています。
真実は、JUULは数百万人のたばこ中毒者になっている何百万人もの人々を確かに救うということです。
最近の研究では、喫煙者が電子タバコに切り替えると肺の状態は改善することが示されています。
アルトリアはCronos株の所有権で大麻ビジネスにも関わっており、大麻が合法化されれば、関与はさらに強くなります。
ワイン事業、ビール事業のSABMillerの大株主でもあります。
アルトリアには未来があり、その一方で巨額の配当を支払います。
現実的に、どう考えるか
記事の内容を駆け足で紹介してきました。
有益なアドバイスではあるものの、すべてを受け入れるのはむずかしいかもしれません。
「友人を家に招いてごちそうでもてなそう」とか知らんし!
「絶対に従った方がいい、マストのアドバイス」を抜き出しておきます。
最低限、これだけ完遂すれば長期投資は間違えないと思います。
「金融衛生」については、この程度が実行できれば十分です。
・企業型・個人型問わず、利用できる確定拠出年金を最大限使い切る
・住宅ローンは借り換えて利息を減らす
・不要なサブスクリプションは切る
これ以上は禁欲志向と快楽志向の兼ね合いになるので、お好みで……というところ。
投資手法については、この記事の趣旨に沿うならば
・相場の下落時に積極的に買いに回る
・アルトリアはPERが10倍を切るくらいの低迷期を狙いすまして、「無くなってもギリ我慢できる」くらいの金額を突っ込んでみる
・個別銘柄選びが面倒なら、日米欧の配当貴族インデックスファンドと海外ETF「DGRE(ウィズダムツリー新興国株クオリティ配当成長ファンド)」を定期買い付けする
良薬は口に苦しと言います。
アルトリア株を持つことの不安や一喜一憂は、遠い未来への良薬として飲み下していきたいもの。
買い時については今後も当ブログでフォローしていきます。
人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!
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