米国の投資情報サイト“Seeking Alpha”に、米国株式の現状の評価と下落の可能性について詳細に検討する記事が掲載されました。
Propositions For A Recessionary Bear Market
景気後退を伴う下落市場に対する提案

兼業個人投資家が投資信託やETFを利用して株式投資を行う場合、米国株式がかなり多く含まれがちです。

全世界株式ファンド:約5割
日本以外先進国株式ファンド:約7割
一般的な海外株式に投資する投資信託に米国株式が含まれている割合です。
仮に米国株式が50%下落した場合、全世界株式ファンドは25%下落することになります。

現状、世界中で米国ほど株式が過熱している国はありません。
事前に対処を考えておきたい時期に来ています。

記事の要所要所を拾っていきます。

悲観論を語り続ける博士、ジョン・ハスマン



著者はかつてミシガン大学でファイナンスの教授をつとめ、現在ではヘッジファンドを運用するジョン・ハスマン博士です。

「米国株式は史上空前の割高になっている」と2017年から叫び続け、その方針でヘッジファンドを運用した結果、成績は非常に芳しくありません。

しかし、かつてはITバブル・サブプライムバブルを見事に回避した実績もあります。
主張内容は非常に説得的です。

①「S&P500は、現在の市場サイクルが完了するまでに50~65%の間で下落する」
S&P500は、現在の市場サイクルが完了するまでに50~65%の間で下落すると予想される。S&P500株が65%下落すれば、これまでの標準的な評価水準になる。

現在、米国の株式市場の評価は、1929年と2000年のピーク時の評価に匹敵するか、それを上回る割高水準で推移している。

ハスマン博士は、自らが考案した「利益率調整済みCAPE」という指標を用いて、米国株式の長期的な評価をさかのぼって計測しています。


グラフの通り、「利益率調整済みCAPE」によると現状は世界恐慌前(1929年)・ITバブル時(2000年)に匹敵する割高状態となっています。
10年間かけて育まれた割高を解消するには、50%~65%の下落が必要との説です。

②「低金利は株式市場の評価を「正当化」しない」
低金利は株式市場の評価を「正当化」しない。むしろ、低金利と高評価の組み合わせは、単に株式と債券の両方が同様に低い将来のリターンを生み出すように価格設定されていることを意味している。

株式の益回り(100÷PER)と国債の金利の差を取るイールドスプレッドを参照して、「株式は金利と比較してかなり価値があるように見える」とする評価法がよく用いられます。

市場の資金は株式と債券を行ったり来たりするので、株式が割高なら債券は安くなり、株式益回りは下がり債券利回りは上がり、イールドスプレッドはもっと小さくなるはずだ……という考え方です。

ハスマン博士は、イールドスプレッドを用いると「現在の株式の評価を無視できる」ことになり危険だといいます。

将来、投資家の手に渡る一連の将来キャッシュフローと現在の株価を与えられた場合、それをつなぐ「割引率=収益率」を計算することができます。

計算式は省略しますが、要は「将来のキャッシュフローに対して、現在の株価が高ければ収益率は低くなり、株価が安ければ収益率は高くなる」という関係になります。

ウォール街が「低金利は株式市場の高評価を正当化する」と言ったとしても、株式市場の高評価がその後の株式市場の低リターンと結びついているという事実は変わらない。
ハスマン博士はこう言います。

③「金利の低さは、経済成長の停滞&低インフレと整合する」
失業率を一定とすれば、米国経済は今後十年間に年率で約1.6%しか成長しないと予想される。

構造的な実質経済成長率が低くインフレが抑制されている状況において、名目GDP成長率・企業収益・企業の付加価値総額・その他のファンダメンタルズが抑制されていることは、米国の金利水準の低さとかなり整合的である。

下のグラフは、10年米国債利回りに対する名目GDPの10年成長率をプロットしたものである。名目経済成長率と名目金利の連動性は例外ではなく、原則であることに注意。



金利が低ければ経済成長率も低い、その中で株価だけが上がり続けていけるわけがないという見解です。

低金利と高評価の株式市場評価の組み合わせは、「公正価値」での均衡状態ではなく、あらゆる可能性の中で最悪の状況を投資家に提示している。

S&P500 60%、米国長期国債 30%、米国短期国債 10%の割合で投資したポートフォリオについて、予想される投資収益は……今後12年間の総収益率は、現在年率1%未満と推定される。

年率1%という数値は、インデックス投資の父として知られるジョン・ボーグルも、昨年に「株式の期待リターン=配当利回り+収益成長率+PERの変化」という計算式を用いて言及していました。
John Bogle’s formula says 1% real stock returns likely over next decade
ジョン・ボーグルの公式によると、今後十年間で実質株式リターンは1%になる可能性が高い

④「長期債券は、現状では主に投機的な投資である」
長期債券は、現状では主に投機的な投資である。

債券の短期リターンは、利回り自体が低下している期間の満期利回りを上回るが、そのリターンを将来に外挿するべきではない。

債券市場では、短期国債の利回りが長期国債とほぼ同水準かそれ以上となる逆イールドカーブが形成されている……金利構造もまた、短期国債ではなく長期国債を保有するための「定期保険料」をほとんど提供しない。

景気後退がすでに低迷している債券利回りをさらに低下させる可能性がある……それは投機的なものだ。

これまでは株式の低迷を長期国債がうまくヘッジする形となっていました。
両方の資産を合わせて持っていると、波と波が打ち消し合いながら右肩上がりに総資産が成長してきたのです。


青がS&P500インデックスファンド、橙が米国長期国債ETFです。

2016年あたりから株式と長期国債の逆相関がなくなり、両方とも似た形で上昇しています。
債券は価格が上がれば、利回りは下がっています。

利回りが低下した長期国債は、さらに金利が下がって価格上昇という「投機的」な動きを見込まない限り低い収益しか得られません。
株式からの避難先としての価値が低くなっているということを示しています。

⑤米国株式の「興味深いが、どこにも行けない旅路」
「興味深いが、どこにも行けない旅路」で詳しく述べたように、投機的な市場サイクルが完了すれば、株式が財務省短期証券のリターン以上に享受してきたリターンを完全に一掃するはずだ。

ハスマン博士は個人ブログに、米国株式の「興味深いが、どこにも行けない旅路」という記事を掲載していました。
米国株式が上下動のあげく、十数年の長期間を経て短期国債のリターンとほぼ同じ水準に戻ってくる現象が幾度も繰り返されたことを指摘しています。


このグラフはS&P500と短期国債のリターン倍率を描いています。
2000年のITバブル、2007年の不動産バブルと2度の高騰を見せたものの、2008年のリーマンショックで墜落したS&P500は、14年の時を経て短期国債と同様のリターンに落ちてしまったのです。

S&P500が財務省短期証券のリターン以上に享受していたトータル・リターンが、最終的にすべて消去されてしまった。

短期国債を抱え、部屋の中で安全に過ごしていた投資家をよそに、リターンハンティングで果敢にリスクを取った株式投資家が進んだケモノ道は、最終的に元の部屋に通じていた……というわけです。

実は、このような株式投資の無為の旅はたびたび起こっていました。

S&P500は、1929年から2009年までの80年の間に、どこにもたどり着かない三度もの長い興味深い旅をした。そのうちの53年(1929-1945、1959-1982、1995-2009)は、結局、リスクのない財務省短期証券のパフォーマンスを下回った。

株式長期投資は報われる可能性が高いですが、エントリー時の評価が重要であることがよくわかります。

⑥「受動的な投資戦略……うまくいかないよ」
従来型の受動的な投資戦略への投資家の流出は、主に、「降伏」と過去の好成績を追い求める1つの形態といえる。うまくいかないよ。

S&P500に代表される過去のインデックス投資が目覚ましい成績を収め、ほとんどのアクティブ投資信託を打ち負かしてきたことは論を俟ちません。

しかし、投資家が将来期待できる長期的なリターンは、投資時の株式の評価によって決まるとハスマン博士は言います。
「過去の業績は、将来の見通しの『反対の』指標としてでない限り、投資家は考慮すべきでない」

投資家を受動的な戦略に誘う過去のパフォーマンスは、株式や債券の市場価値の大幅な上昇と、それらの価格に現在組み込まれている、長期的なリターンの著しい崩壊によって推進されている。これらの一見魅力的な過去のリターンは、同じ投資が現在生み出すであろう暗い将来のリターンの鏡像である。

バラ色の日々の中でめいっぱい成長しきった米国株式を離れ、割安な国の株式に分散投資する。
一時的に現金化し、下落相場の中で再投資する。
このような、何らかの対処が必要ではないでしょうか。

さて、米国株式から逃げるには?

当ブログではしつこいくらい、米国株式の高騰に警鐘を鳴らしてきました。

米国株式のこれから30年は、これまでの10年とはだいぶ違うようです

米国金融市場研究の重鎮が「現在進行中のバブル」への対処を語る バブル、バブル、労苦 andトラブル

実際に米国株式をどう減らしたらよいのか?についても記事にしています。
どこかで非常ベルが鳴っている 米国株式からの逃避手段
参考になれば幸いです。

米国株式相場の下落については、予兆はあるものの、過去の例を引くとまだ時間の余裕はあるようです。
落ち着いて行動計画を練り、対処していきましょう!

人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

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