米国著名投資家ハワード・マークスの「マイナス金利って、ヤバくない?」のお話です。
いつもありがとうございます。

「投資の哲人」ハワード・マークス



米国の運用会社オークツリー・キャピタルは、景気や信用(お金の貸し借り)サイクルを利用した逆張り投資で知られます。
運用資産残高は約800億ドル(約6.2兆円)にのぼり、高利回り債(ハイイールド債)と不良債権(ディストレスト・デット)への投資を得意としています。

創業者のハワード・マークスは顧客向けレターを定期的に公開しており、それをまとめた書籍「投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識」は日本でも話題になりました。

オークツリー・キャピタルから本日届いた顧客向けレターより、ハワード・マークス最新の所信をご紹介します。

マイナス金利は「ミステリアス」

レターのタイトルは“Mysterious”(神秘的)
毎度のことながら意味深です。

今回は、日本や欧州で猖獗を極め米国にも迫りゆく「マイナス金利」についての考察です。

債券の金利がマイナスに沈むのはなぜなのか?
それによって商習慣の常識すら変わるのでは?
僕らの投資はどうしたらよいのか?

重要な示唆が得られます。

マイナス金利――なぜ、どうなる、どうする?

ハワード・マークスが最初にマイナス金利に出遭ったのは、スペインに投資をしていた2014年のことだったといいます。

月曜日に契約締結を控え、その前の週の水曜日に資金が先方に着金。
ハワードの代理人であるスペイン人弁護士と交わされた会話です。

弁護士 :着金しました。今日から月曜日の間はどうすればいいですか?
ハワード:銀行に預けてください。
弁護士 :月曜日には、今日預金した額よりも減るということはご承知ですよね。
ハワード:了解、銀行に預けないでください。
弁護士 :銀行に預ける必要があります。
ハワード:では、銀行に預けてください。

一般的には、タンス預金をするにも限りがあります。
1億円をベッドの下に隠して、枕を高くして眠れる人は珍しいです。
まして事業資金をそこらに置いておくわけにはいきません。

誰もが銀行にお金を預ける必要があり、マイナス金利は、時と場合によっては預金が減少していく事態です。
「人々がお金を安全に保管するために費用を払う」事態といえます。

9月4日には、ブルームバーグで「世界中の債券がマイナスの利回りに沈み、米国債も例外ではない」と指摘されました。

名目利回りがゼロを下回る世界の債券市場は17兆ドルを超えるが、インフレを考慮すると35兆7,000億ドルに跳ね上がる……米国では、9兆ドルを超える国債の利回りがCPIを下回っている。

これを受けてのハワード・マークスのコメントです。

マイナス金利商品では、今日債券に支払う価格は、満期時に返済される額面金額と中間期に受け取る金利の合計を上回る。
つまり、利回りの悪い債券を買って満期まで保有すれば、必ず損をするということ。
では、なぜ誰もが負の利回りの債券を買いたいと思うだろうか。


投資家に「安全への逃避」として、確実かつ限定的な損失をこうむることを選択させる未来への恐怖。
それは景気後退、市場の下落、信用危機、短期金利の低下、その他の要因に関連して生じる。

短期金利がさらにマイナスになり、債券投資家に利益が与えられるだろうという信念。債券価格が上昇するであろうという期待を暗黙の裡に含んでいる。
デフレ期待。償還された元本の購買力を上昇させる。
(債券発行国の現地)通貨がマイナス金利を超えて上昇するという投機。

迫る未来に恐怖し前もって損失を限定しておく。
一方で、さらなる金利低下に賭けて債券価格の上昇に投機する。
彼はマイナス金利の債券を保有する投資家の事情をこのように分析します。

続いて、マイナス金利が生じるメカニズムに踏み込んでいきます。

マイナス金利の背景にある考え方は単純だ。

たとえば、金融機関が貨幣の時間価値を相殺するために年率2%の実質リターンを求め、今後5年間で2%のインフレが予想される場合、5年間の米国債の利回りは4%になるはずである。
しかし、金融機関が年間3%のデフレを予想するなら、理論的にはマイナス1%になるはずだ。


現在の欧州や日本のマイナス金利はデフレの進行を示しているのだろうか。
それとも、お金の時間的価値に対する貸し手の見方が変わったのだろうか。
それとも、政府や中央銀行がマイナス金利になることを望んでいるだけなのだろうか。


・欧州や日本の中央銀行がマイナス金利を望んでいる
・景気低迷が投資家の悲観を強め、資金需要を弱めている
・低インフレがリスク資産への投資による購買力維持を無用のものにしている
・技術の驚異が製品を安く、あるいは無料で供給し続け、インフレを抑え続けるかもしれない

「マイナス金利の理由」とされる解釈を並べたうえで彼はこう言います。

すべてのユーザーがこのリストに自分のお気に入りを持っている。
しかし、 「専門家」 を含め、誰もが異なる。
中央銀行がマイナス金利を望んでいるからマイナス金利だと考える人もいれば、それは市場がマイナス金利を設定しているからだと考える人もいれば、それぞれのマイナス金利の一部だと考える人もいる。


以上を踏まえると、マイナス金利の理由が十分に理解されていると考えるべきではない。

続いて、マイナス金利の世の中で起こるビジネスの根本的な変化にふれます。
中央銀行にとっては少なくとも景気の下支えを意図するはずのマイナス金利が、経済を縮小させる可能性があるというのです。

昔の人々は、お金を銀行に預けて、できるだけ長く利子を稼ぐことを好むように、可能な限り最後の日にお金を払った。
マイナス金利下では、彼らはより早く支払うことを好むかもしれない。


同様に、売掛/未収金を迅速に回収する動機もない。
以前は、卸売りの顧客には請求書を早く支払うための割引が提供されていた。
(マイナス金利下の)売り手は「いいえ、取っておいてください。できれば半年で払ってほしいのですが」と言うかもしれない。


重要なことに、負のレートによって送られる悲観的なシグナルは、それらが刺激効果よりむしろ収縮効果を有することを意味し得る。

マイナス金利は年金基金に悪影響を及ぼす。
銀行の収益性についても同様と。
すでに日本の地方金融機関は低金利下でビジネスが立ち行かなくなっています。
そのうえ、一般的な商習慣すら変えうる「収縮効果」があるかもしれないというのです。

そして、マイナス金利下で投資家は何をすべきか?という、一番知りたい懸念にふれていきます。

上に述べたような世界では、おそらく最も信頼できる解決策は、耐久性のあるキャッシュフローを備えた物を買うことにある。
債券、ローン、株式、不動産、そして安定した収益を上げられる可能性のある企業 (あるいは、コストに対する実質的な利回りを反映した収益や分配の増加が期待される企業) は、すべて利回りがマイナスになったときの合理的な反応のように思える。
私の考えでは、耐久性と信頼性は非常に望ましい。


今日の市場環境では、予測可能性のある資産の価格が異常に高く設定されていることが多く、……同時に経済や市場が過去とは多くの点で異なるルールの下で運営されているため (その一部は上記にも反映されている)、正確な予測を行うことは通常よりも困難になりがちである。
これらは、概念は単純だが、投資は簡単ではない。


耐久性と信頼性を兼ね備えた、優良資産への堅実投資がマイナス金利下では有効であるとハワード・マークスは言います。
むやみにリスクを取っても報われないという判断です。

ただし、すでに優良資産は値上がりしているとも言います。
概念は単純だが、投資は簡単ではない。

では、僕らの投資をどうしよう?

「耐久性のあるキャッシュフロー」を得られる商品で、兼業個人投資家が利用しやすいものを思いつく限りあげてみます。

マイナス金利下でも堅実なキャッシュフローが見込める資産に投資する商品ではありますが、ハワード・マークスの言うように、すでに高値まで買い上げられている分野の商品もあります。
生活必需品セクターに投資するETFなどがまさにそれです。

相場下落のタイミングを見計らって買い付けてゆきましょう。

①増配株指数に連動する投資信託・ETF
長期間にわたって、株主への配当を増加させてきた企業に投資する商品です。
増配継続はビジネスの堅実さを示し、マイナス金利下でもキャッシュフローが潤沢な企業である可能性が高くなります。

・One ETF 高配当日本株(1494)
・SMT 日本株配当貴族インデックス・オープン
・野村インデックスファンド・米国株式配当貴族
・SMT 米国株配当貴族インデックス・オープン
・SMT 欧州株配当貴族インデックス・オープン
・バンガード 米国増配株式ETF(VIG)

②クオリティ投資信託・ETF
財務健全性や収益性などでスクリーニングされた企業に投資する商品です。
経済環境の変化にも揺らがない優良企業に投資できます。

・MAXIS JAPANクオリティ150上場投信(1460)
・eMAXIS JAPANクオリティ150インデックス
・ウィズダムツリー 米国株クオリティ配当成長ファンド(DGRW)
・ウィズダムツリー 米国小型株クオリティ配当成長ファンド(DGRS)
・ウィズダムツリー 欧州株クオリティ配当成長ファンド(EDUG)
・ウィズダムツリー 新興国株クオリティ配当成長ファンド(DGRE)
・インベスコ S&P世界先進国クオリティ ETF(IDHQ)

③公益・生活必需品・ヘルスケアセクターに投資するETF
キャッシュフローが景気の振幅に左右されにくい業種の企業に投資できます。

・NEXT FUNDS食品(TOPIX-17)上場投信(1617)
・ダイワ上場投信・TOPIX-17 食品(1634)
・NEXT FUNDS医薬品(TOPIX-17)上場投信(1621)
・ダイワ上場投信・TOPIX-17 医薬品(1638)
・NEXT FUNDS電力・ガス(TOPIX-17)上場投信(1627)
・ダイワ上場投信・TOPIX-17 電力・ガス(1644)
・iシェアーズ グローバル生活必需品 ETF(KXI)
・バンガード 米国生活必需品セクターETF(VDC)
・iシェアーズ グローバル・ヘルスケア ETF(IXJ)
・バンガード 米国ヘルスケア・セクターETF(VHT)
・iシェアーズ グローバル公益事業 ETF(JXI)
・バンガード 米国公益事業セクターETF(VPU)

④格付けの高い短期公社債に投資する投資信託
金利の上下動に左右されにくい短期債権のうち、主に高格付けの社債に投資する商品です。
少額ですが確実なインカム収入に基づく投資収益が得られます。

・ニッセイ日本インカムオープン(年1回決算型)

人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

(参考文献)

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