新春特別連載!「ディメンショナル・ジャパン」ポートフォリオ・マネージャーと約2時間、こってりお話ししました ①「日本で一番むずかしい投資信託ですよね……」と言った時、部屋のなかが一瞬で真空になった
の続きです。

以前、当ブログで世界株式に分散投資する投資信託「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド」について取り上げたところ、その運用を担当するグローバル大手運用会社の日本法人であるディメンショナル・ジャパンの竹山氏からご連絡をいただきました。
情報交換をしたいというのです。

今回は会合のなりゆきをつづっていきますが、その前提として、ディメンショナルの特色ある運用についてまとめたのが
前回の記事でした。

・「小型」「割安」「高収益性」といった、学術研究で有効性が確認されている指標(「ファクター」)を利用して
・市場ポートフォリオ(市場平均)にシステマティックにツイストを加える低コスト運用で
・長期的に市場平均を上回ることを目指す


当ファンドの運用にはこのような特徴があります。
詳しくは前回の記事をご覧いただければ幸いです。

来訪されたのは、
竹山氏(リージョナル・ディレクター)
藤森氏(ヘッド・オブ・クライアント・サービス)
濱氏(シニア・ポートフォリオ・マネジャー&ヴァイス・プレジデント)
以上のお三方です。

「理屈」はカネを動かさない



ごあいさつから本題に入るまでしばし雑談にふけりながら、僕はお三方の悠揚迫らぬ様子に感じ入っていました。

いわゆる「金融の鉄火場を潜り抜けてきた」系の押し出しの強さがまったく感じ取れなかったからです。
情報交換したいというお話でしたが、お三方とも静かににこにこしていて、僕が話を切り出すのをゆったり待っている感じ。

ディメンショナルの運用について深く話を聞き、オフィスにうかがってその様子を見た今ではすべて合点が行くわけですが、このときは「人柄のよい方々なのだろうなぁ」とぼんやり思っているだけでした。

ところで……
ご足労いただく以上、この機会は最大限に生かしたいところです。
「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド」を高く評価している者として、ディメンショナルの運用の精髄を聞き取って読者の皆さんに広くお伝えするとともに、兼業個人投資家を勝手に代表させてもらい、率直な声をディメンショナルの方々にお届けしたいと思っていました。

まず最初にお伝えするべきは、「ディメンショナルの運用手法・哲学は、一般個人投資家にはきわめて訴求しにくい」ということでした。

「学術研究の成果に基づいたシステマティックな運用」というふれこみに魅かれるのは、しょせんは僕のような投資運用マニアが関の山。

世の中の多くの人は、基本的に「科学」や「研究」や「学者」がキライです。
「センセイはしょせん現場知らず」みたいな物言いが大好きです。
「スター運用者」はもてはやされても、「ブライテスト運用会社」は一顧だにされません。

トラックレコード(バックテストを含む)ありきで、運用担当者が紙面や画面に出れば、その投資商品に個人の資金がイナゴのように群がるだけ。
お金の出入りというシビアな世界と思いきや、わかりやすさが物を言う案外情緒的な世界です。
言い方を変えれば、カスタマーリレーションがむずかしい商品ということです。

そのような思いを込めて、僕はこう切り出しました。
「一般の個人投資家が理解して購入するには、あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンドは、日本で一番むずかしい投資信託ですよね!」
……お三方の、戸惑いと苦笑のマリアージュが宙に漂っています。
やってしまいました。

あおぞら投信さんはそのわかりにくさをうまく回避した資料を用意して、販売促進に取り組まれているみたいですね~
などとむにゃむにゃ言いながら、用意していた質問用紙に目を落とします。

「そもそも、ファクター研究って何のためにやってるものなんですか?」

聞くべきことは大きく2つ。
1つは「そもそもファクター投資って何なのか?」
もう1つは「ディメンショナルの運用を個人投資家に売る気はあるのか?」

1つ目から切り出しました。

ディメンショナルは「ファクター投資」を行っているという知識は持っています。
小型・割安・収益性という3つのファクターを加味して、市場ポートフォリオを修正する運用というイメージなのですが……

そもそも、「ファクター」というのは何なのでしょうか?

何というか……
市場を解釈するためのものなのか、
いわゆる「リスクプレミアム」を分解して表現しているのか、
儲けるためのものなのか、
ユージン・ファーマ、ケネス・フレンチという学者二人は何のために、何をしているのかということがうまくつかめないんです……

竹山さん・藤森さんのお二人が濱さんに目をやります。
温厚な若手男性サラリーマンといった風情の濱さんがニコニコしながら、早口で話し始めました。

「それじゃあ僕からお話させていただきますね……うわー、面白くなってきた~」

あー、この様子は僕が欅坂46の話をする時と同じ。
自分が大好きなことを話し出すと早口になってしまう、完全にオタクの口ぶりです。
この人は信頼できる!

「ファクターというのは、『データ整理のしかた』と思ってもらうとわかりやすいです。

先ほど、ファクターとして「小型」「割安」「収益性」をあげていただきました。
このうち「小型」は企業規模、「割安」は相対価格と言い換えて話を進めますね。

もともとは、ファーマは市場ポートフォリオ(市場平均)の有効性を支持する立場でした。
「効率的市場仮説」を提唱した方ですから。

ところが市場価格の研究を進めていくなかで、市場の特定のセグメントが、その他のセグメントと比べてより高いリターンであることがみえてきたわけです。

具体的には、ある「特性」を色濃く持っている株式を束ねて(ポートフォリオにして)、一方でその特性をほとんど持っていない株式のポートフォリオと比較して、そこに成績の差があるかどうかを調べます。

差が出たら、今度はそれが偶然でないかどうか、さまざまな角度から徹底的に調べ上げ、裏取りをするわけです。

その結果、堅牢性や普遍性が確認できたのが、企業規模・相対価格・収益性といったファクターです。
これらのファクターには、プレミアムがあります。

そして、もっとも大きなプレミアムの一つが「市場ポートフォリオ」です。これももちろんファクターです」

なるほど、ファクターとは「データ整理のしかた」である……と。
とすると、いろんな投資信託やETFが売り文句にしている「テーマ」みたいなものはすべてファクターといえるのでしょうか。

たとえば実在する商品を例にとると、「株主還元」「ニッチトップ」「低ボラティリティ」「高配当」みたいなものはどうなんでしょう?
現にMSCIのファクター分析では、「配当利回り」「低ボラティリティ」「値動きの慣性」はファクターとして取り扱われています。

「それは確かにおっしゃる通りで……世の中には数千のファクターがあるなんて言う人もいます。

データの拾い方次第で、いくらでもファクターを作り出すことができてしまうんですね。
これを専門用語で「データマイニング」と言ったりします。

ここまでは運用実務における投資手法の検討・開発と変わりませんし、別に規制があるわけではないので悪いことでももちろんないわけです。
投資商品として、一定の期間、それがうまくワークすることがあっても不思議ではありません。

ただ、私たちが基礎をおいている「学術研究」というものは、そもそもの目的が違います。

研究者は利益を上げる目的ではなく、金融市場の「機能」であったり「メカニズム」であったりを解明するために研究しています。

たとえば、ユージン・ファーマ先生たちが資本市場を研究対象としている理由のひとつは、市場こそが、僕らの社会の基礎となっている自由主義を実践する場として、皆が平等・自由に意見を表明できる場所と考えられているからだと思います。

これはファーマ先生が所属しているシカゴ大学の経済学研究を牽引していた大物経済学者、ミルトン・フリードマンの思想にもつながります。

市場の構造をよいものと認め、その機能である「値付け」、つまり価格発見機能を分析するメジャー(物差し)として、ファクターというものを定義しているのです。

なので、研究結果は検証可能でなければならないし、普遍性や堅牢性が求められます。
ある一定の期間だけでなく、長期にわたって、繰り返し再現される性質でなければいけないということです。

調査の手順と材料とするデータを公開し、他人の検証や批判に耐えるものだけが認められる世界です。
こうした学術研究のプロセスを経ることで、確立された、運用にも生かせるファクターが定義されていくということになります」

ファクターと認められるためには厳密な手続きが必要で、そのことが有効性を裏書きしている。
その大本には自由主義の精神が息づいている、と……。
哲学的なところまで話が飛びました。

さて、ここからどうにかして実運用の話につなげていかねばなりません。
このブログはファイナンスブログではなく、兼業個人投資家向けの投資ブログなのですから。
とにかく儲けにつなげたいんです!

「ファクターにはリスクプレミアムがあります」はあ、左様でございますか……

どうやら……
この「学術研究のプロセスの価値」と「運用における優位性」の接合面が非常に伝わりにくい点が、あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンドのむずかしさの根底にあるのかもしれない。
僕はこう思いました。

投資商品の優位性を伝えるには、まずは一にも二も「カネの匂い」です。
儲かると思うから投資するわけで、カネの匂いを濃厚に匂わせる「トラックレコード」が必要です。

そして、カネの匂いが広く伝播していくのに必要なのが「ストーリー」です。
「カネの匂い」をかぎ、その匂いがどこでどのように生み出されているか、そこまで確かめることでようやく納得して買えるようになります。

投資情報サイトや情報誌のコンテンツとして流通するのは、カネの匂いそのものではなく、運用者の顔や言葉、実際の運用エピソードといったストーリーです。
「ガイアの夜明け」に取り上げられたら勝ち、というのが実際のところなのです。

どうやったら、ディメンショナルの運用の有効性をわかりやすく伝えられるだろうか……そんなことを思いながら、僕は質問を続けました。

「ファクターにはリスクプレミアムがあります」と言われても、いわゆるゲンナマを投じる心情で聞くと「はあ、左様でございますか……」という感じになるというか……。

こんなふうに儲けにつながるんだ。
自分たちにはこんな強みがあるんだ。
そんな方向で、実運用に寄ったお話を聞いてみたいのですが……。

濱さんの笑顔には一点の曇りもありません。
「ディメンショナルのファンドは、米国ではファイナンシャル・アドバイザーを通じて個人投資家にも購入していただいていますが、創業当初は主に機関投資家の顧客を対象としていました。

年金基金のような機関投資家からお預かりする資産の想定運用期間は、基本的にその機関が続いていく限り、終わりはありません。

こうした機関投資家の方々にご納得いただき、世界で数十兆円という資金を集めることができているということは、つまり「もっとも厳しい水準を求める顧客に承認された堅牢な運用」を提供できているということを意味します。

このことは、個人の方々の投資運用においても、大きな信頼性につながると思います。

ディメンショナルが世界中の機関投資家に選ばれている大きな理由として、本当に細かく細かく気をつかって「実装」を行っていることがあります」

実装……?
聞きなれない言葉が出てきました。

「学術研究を実運用に活かすと言っても、実際にはそう簡単なことではないんですね。

ファーマ先生・フレンチ先生は、運用の手法としてファクターモデルを考案したわけではないんです。
モデルそのままでは、実運用にはまったく活かせません」

その発想はなかった……!

これまで投資関連書籍は多々読み込んできましたが、ピュアな学術論文にふれたことはありませんでした。
研究者の一般向け書籍、あるいは実務家による書籍しか目にすることがなかったのです。

研究と実運用の乖離って、たとえばどんなことですか?

「たとえばポートフォリオの長期運用成績を検討する場合、研究であれば平気で『リバランスはリアルタイムに行われる』という前提だったりするわけです。
そんなことが実際にできるわけがない(笑)。
取引コストや税金も考慮されていません。

さらには、たとえばファクターの1つである「企業規模」にしても、企業規模が小さく出来高の少ない銘柄をうかつに売買すれば、ファンド自身の売買が市場価格を釣り上げてしまうこともあり得ます。
「マーケットインパクト」といいますが、研究ではこういった点も考慮されません。

このような課題を研究者と議論しながら1つ1つ解決し、運用手法に落とし込むことを「実装」とよんでいます。
それはポートフォリオ構築のルール作りから、たとえば「小型銘柄を売買する際の指値の入れ方」といった細かい点にまで及びます。

ファクター研究を実運用に取り入れる運用機関は少なくありません。
しかしながら、いかにこの「実装」に研究の意義を正確に反映し、効果的かつ低コストに行うかという点に、ディメンショナルの存在意義があります。

細部に至る徹底的なこだわりが、長期での運用成績を分けると考えています」

あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンドはディメンショナルが運用する2つのファンドを通じて、世界中の株式9,803銘柄に投資しています。
バンガードの全世界株式ETFよりも約1,100銘柄多く分散投資しています。

そのうえ、企業規模・相対価格・収益性の変化に応じた各銘柄の売買が発生します。
ポートフォリオ調整を細かく細かく行っていく必要があります。

ファクター投資で得られるプレミアム(収益)を最大化し、一方でそれを食うコストを最小化するための、いわば職人的なこだわりがディメンショナルの存在意義であるといえそうです。

しかし、それを数字で見ると一体どうなるのか……
やっぱり市場平均との長期比較ができないと……

そう言い募る僕に、濱さんの脇に控える竹山リージョナル・ディレクターが1冊の冊子を差し出しました。

「長期の円建てリターンをまとめてあります。
世界先進国株式にと比較して上回っていますので……」

かっ、カネの匂いがしてきたぞ!

次回、

・ディメンショナルの「円建て長期リターン」はどうなってる?
・運用者や投資家にとってのファクターってどのようなもの?
・「バリューが10年間負けても、珍しいことではありません」って一体何を言ってるの?


続きます。

※今回の来訪に関して、一切の金銭や便宜の供与はありません。

人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

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