利益は下がるが株価は戻り、日本の投資家が大挙詰めかける米国株式の現在と未来を全2回で総ざらいするシリーズの後編です。
今回は市場関係者と市場研究で有名な2大経済学者の解釈に迫っていきます。

前回の記事はこちら
日本の個人投資家が大挙詰めかける米国株は“バブル”なのか? ①“これまで上がってきたものはこれからだって上がるんだ”に“破滅博士”が待ったをかける

警戒を緩めない運用プロフェッショナル、その名は“バリュー投資家”

実は新型コロナウイルスが猖獗を極めるはるか前、2018年にはすでに米国株式は“ドットコムバブル以来の割高水準”にあると言われていました。


株価水準の長期的な割高・割安を知ることができる“シラーCAPE”の推移です。

CAPE(Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio)は、ノーベル経済学賞受賞者の米イェール大学のロバート・シラー教授が考案した指標です。
過去10年間の平均利益に物価変動を加味した値を1株あたり利益とし株価をそれで割ったもので、景気循環の影響を調整した株価の割高・割安を見ることができます。

算出開始以来の最高値は2000年8月の47.13倍でした。
ドットコムとサブプライムという2つのバブル崩壊を経た17年後、2018年1月には32.36倍を記録し近年での最高値を記録します。2020年1月には30.91倍を記録し、依然として高値圏内にありました。
コロナショックを経た直近6月のCAPEは29.86倍を記録しています。

アメリカの投資運用プロフェッショナルが集う投資情報サイトで、精力的な投稿を続け注目を集めるファイナンシャルアドバイザーのゲイリー・ゴードンは、CAPEを含むあらゆる指標を参照して米国株式の割高を訴えています。


上の表は、企業価値や株式時価総額・売上・純資産・利益などさまざまな数値を用いた8つの米国株式評価指標のうち、2020年1月の段階でそのほとんどが過去最高~4%の間に収まる高評価、つまり過去有数の割高状態であったことを示します。

評価指標の対象となる企業価値や売上・純資産・利益はコロナショックを経て大きく減少し、先行きがきわめて不透明となっているにもかかわらず、S&P 500の株価水準は1月とほぼ同様です。

2019年にはすでに米国企業の収益は下落トレンドにあり、株式市場は投資家の期待のみでの上昇となっていました。
コロナショックが加わったことで割高度はさらに増しておりいつ崩壊してもおかしくない、米国株式市場はバブル状態にあると、彼は今日も叫び続けています。

預かり資産約7兆円を誇るアメリカの著名投資会社GMOを率いるジェレミー・グランサムは、その長いキャリアにおいて “日本株式” “ドットコム” “サブプライム” 以上3つのバブルに先駆けて警鐘を鳴らしたことで知られるバリュー投資家です。

グランサム翁はこう言います。
“米国株式は現在、株価の利益に対する倍率で歴史上の最割高10%圏内にあり、経済の状況は最悪の10%圏内にある。つまり……今はおそらく最悪の1%の真っただ中だ”

米国株式は、50年を超える彼のキャリアの中で4度目となる巨大なバブルになると彼は警告します。

彼が率いるGMOの見込みでは、いま、米国大型株式への投資は今後7年間の年率リターンで-4.7%、米国小型株式は-3.0%と、いずれもマイナスリターンとなるとしています。



短期でバブルに乗る腹積もりで行くならいざ知らず、長期投資では米国株式の分は悪そうだ……というのが、株式の評価(バリュエーション)を重視するバリュー投資家の見解となります。

いま米国株に賭けている方々、機をとらえて利を伸ばし敏に売り抜ける方策は、すでに懐にありますか?

大御所であり朋友である2大経済学者はいずれも “驚くには当たらない”

さきほど “CAPE” の考案者としてご紹介したロバート・シラー教授自ら、資産市場の権威として現在の米国株式市場についてのコメントを残しています。

彼いわく、資産市場と実体経済の間には弱い関係しかなく、資産市場が独り歩きするというのが歴史のほとんどで見られた現実であるといいます。
株式市場と経済が別々の動きをしても驚くに値しないというのです。

CAPEの歴史的な平均は10倍台後半であり現在の水準はまぎれもなく高いとは言える。
が、しばらく高い時期もあった。
2000年にはずっと高く、45倍を超えていた。
ここからさらに上昇する可能性は、間違いなくある――――

彼は “公正な資産価値” つまりフェア・バリューという考え方にとらわれることなく、投資家の心はいかようにも振れることを看破しています。
バブルを作り上げる心とそれに乗る心、いずれもまた資本主義をかたちづくる “アニマル・スピリット” (動物的な野心)の現れだというわけです。

ロバート・シラーの同窓かつ親友であり、アメリカ金融業界に綺羅星のごとき人材を送り込むエリート養成学校・ペンシルバニア大学ウォートン校の教授であるジェレミー・シーゲルもまた、株式市場へのコメントをひんぱんに求められる学識者の一人です。

“永久に強気” という異名を持つシーゲルですが、その強気を支えるのは “バリュエーション” です。
バリュー投資家と共通する物差しで違う世界を見ています。

シーゲルは現在の米国株式市場を評するに、コロナ・ショックの前から言葉をはじめます。

いわく、
新型コロナウイルスが蔓延する以前、米国株式市場に何も過剰は存在しなかった。
現在とドットコムバブルを並べようとする人は、みなバリュエーションを見ていない。

そこに新型コロナウイルスが襲来し、給付金・融資金が個人・企業に配られた。
中間・下位の所得者は給付金を直ちに消費し経済は潤う。
貯蓄に回れば資産市場に向かい、株高となる。
株式市場は将来を織り込むので、経済の回復がU字型になるとしても、株式市場はV字回復しても驚くには当たらない……。
シーゲルはこのようにまとめます。

バリュー投資家が企業業績と株価の関係を厳格に評価することに比べ、学識者二人は政府とFRBの政策に呼応する投資家の動向を冷静に見つめています。
正誤の判断が運用成績につながる実務家とは異なり、大局を観る研究者の視点です。

シーゲルの判断の根底には、今回の政府・FRBによる大希望な金融・財政政策が緩やかなインフレを引き起こすという観測があります。
金利は低く保たれるものの、株式投資には好ましい環境です。

低金利下では債券投資によるリターンは見込めず、むしろマイナスの可能性もある。
米国株式は現在、株価の5%程度の利益を生み出す力を持っており、債券より株式投資が好ましい環境が続く――――
シーゲルの長期観測です。

恐慌・極度な割高・上昇続きも不思議なし メニューはそろった

ルービニ教授の恐慌論。
バリュー投資家の割高論。
学識者二人の現状肯定論。
全てのメニューが出そろいました。

結局のところ、新型コロナウイルスがいかに拡大または収束していくか、消費者と経営者のマインドがいかように動いていくかによって、どのシナリオが採用となるかが決まります。
その部分の予測は投資家おのおのの腕の見せ所です。

こういうときは往々にして、惜しまれつつ亡くなったバンガード・グループ創業者であり投資界の長老ジャック・ボーグルの決まり文句 “Stay the Course” が勝つわけですが……

10年に一度の動乱の時、知恵を絞りに絞って大胆に動いてみるのも投資の楽しみといえるかもしれません。

人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

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