“ほんとうは、先のことは誰にもわからない”コロナウイルスと世界経済

働いても働いてもわが暮らし、楽にならざり給料は増えぬ……

(毎月勤労統計調査(速報値)2019年・厚生労働省より作成)

今後40年は止まらない高齢化、そして年金不安……

(内閣府ウェブサイトより転載)

ミもフタもないこれら“ニッポンの真実”のもとで、すでにどうにもさえなかった私たちの生活を、新型コロナウイルスはそれすらも根本から揺るがしにきています。

その影響を経済面で見てみると、まず“3密”(密閉・密集・密接)を発生させる飲食業やイベント業および歓楽街の業態を苦しめ、続いて行動制限を通じてアパレル業と観光業・旅客運輸業のそっ首を全力で絞めつけています。
ウイルスが再び勢いを増すなか、いずれの業界もまったくの五里霧中をさまよっています。

一方、ココが稼ぎ時とばかりにさまざまな論者がツイッターや雑誌、書籍等々で“アフター・コロナ” “ウィズ・コロナ”経済・投資論を唱えています。
新型コロナウイルスが社会や人の心理に与える影響はさまざまに論じる余地はありますが、経済的な影響についてはある程度出尽くしてきたようです。

まず最初に申し添えますと、大手金融機関やシンクタンクに所属されている堅実な論者から、一旗揚げようとエッジを立てた言挙げをする論者(私を含みます)まで、実は皆わかっているのです。

“ほんとうは、先のことはわからない”
ということを。

世界経済百家争鳴、しかしそれでも“答え”は出ない

たとえば、私たちの消費や企業の投資を大きく左右し経済の根幹をなす“物価”の予測ひとつとっても、論者によってまるで正反対の現象が懸念されている始末です。

継続的な物価下落を意味する“デフレーション”と物価上昇機運を示す“インフレーション”です。
さらには不景気の物価高である“スタグフレーション”まで予測メニューに載っています。
それぞれの代表的な意見を要約してみるとこんなところです。

いわく、
今後の世界は人々の行動様式が大きく変わっていき、飲食・イベント・観光・復職などさまざまな分野で出力を落とした“7割経済”を余儀なくされる。
中央銀行と政府の協調でマネーストック(市中に出回るおカネ)はじゃぶじゃぶでも、消費者も企業も不安心理から手元の資金を貯蓄に回し、長く日本を苦しめてきた“流動性の罠”が世界中に及んで物価下落を伴う不景気、いわゆるデフレの恐怖が続く……。

いわく、
世界各国がこぞって空前の金融緩和・財政支出を行い経済の下支えを続けるなかで、新型コロナウイルスがぶじ収束に向かい経済活動は再浮上。
消費者や企業の手元で使い道がなくたまっていたマネーがリベンジ的な勢いで高速回転をはじめ好景気を呼び、インフレとなる……。

いわく、
歴史的規模の金融緩和・財政支出まではインフレと同じ経路をたどるが、新型コロナウイルスに有効なワクチンが開発できず大波小波が継続し、一向に経済フルオープンにたどりつかないルートに至る。
不景気が遷延するなか、米中対立の先鋭化が加わり世界経済のブロック化・農工業の内製化が進んで、コストプッシュ型の悪性インフレつまりスタグフレーションが生じる懸念がある……。

実際のところ、どのルートをたどるかは今のところ誰にもはっきりしたことは言えないわけです。

新型コロナウイルスの帰趨がまだ読めない以上、論者それぞれの元来の主張やメインシナリオ(楽観シナリオ)に引っ張り込んだ論を立てているだけ……というのは言いすぎでしょうか。

そして、いずれかの論に共鳴する受け取り手もまた、自分の都合や好みに合うものを選択しているだけ……という点では違いはありません。

はたしてそんな場当たり的なやり方で、長期的な資産形成に成功することができるでしょうか?

ここでほんとうに私たちがするべきこと……とは?

いま資産運用をするうえで、私たちにできること、するべきことは2つ。

すべてのシナリオに対応する“基本の構え”をとる。

世の中の方向が決まったときの“行動プラン”を作っておく。

この2つです。

先行きが不透明なうちは、想定できるすべてのシナリオから生じうるリスクに対応できる、防御的な陣形をとっておきます。

コロナ下での雌伏の時もいつかは必ず終わります。
薄日が差してきたら、その方向へ一直線に突き進む時です。
その際に乗り物を事前に用意しておかなければ出発がおおいに遅れ、旨味のある場所はあっという間に取られてしまいます。
即座に動ける行動プランが必要です。

ウィズ・コロナの不透明な時代は、“守りながら攻めに備え、攻めながら守りに備える”投資プロセスを組み立てておくことが重要です。

うってつけな投資法をさる著名ヘッジファンド創立者が提唱しています。
“オールウェザー”つまり“全天候型”ポートフォリオです。

市場環境を問わない高収益の運用実績をもち、大手年金基金や政府系投資ファンドなどからも資金を集めている米国の巨大ヘッジファンド運営会社・ブリッジウォーター。1991年の創業以来、ファンドの成績は年率換算で21%に達するといいます(コロナショック前・報酬控除前)。
その創業者レイ・ダリオの発言は、金融メディアを常に大きくにぎわせます。

彼は常に安全性を第一とし、「適切な分散とリバランスがリスクを減らしリターンを改善する」という長期投資の基本を外すことがありません。
世界中の株式・債券、そしてコモディティやゴールドなどで分散すべきだといいます。

単純な算数ですが、50%の損失から回復するには100%の利益が必要となります。
大きな損失を大きな利益で埋め合わせることは非常にむずかしいため、彼は可能な手段すべてを講じて注意深くリスクを減らすアプローチをとっているのです。

経済成長の高い局面・低い局面、物価上昇の高い局面・低い局面のいずれにも対応し、守りながら資産をじっくり増やせるレイ・ダリオの全天候型ポートフォリオがこちらです。
運用成績の折れ線グラフができるだけ右下を向かないよう、なるべく右肩上がりになるように組んだポートフォリオといえます。

30%:米国株
15%:米国中期国債
40%:米国長期国債
7.5%:コモディティ
7.5%:ゴールド


このポートフォリオの運用成績を過去30年間(1984~2013年)さかのぼってシミュレーションすると、年率リターンは9.72%となります。

成績がマイナスになった年は4年だけで、もっとも悪かった2008年(リーマンショック)でも-3.93%で踏みとどまりました。同年の米国株式(S&P 500)が-49%を記録したのに比べると、その鉄壁の守りが際立ちます。

一般に米国投資家は株式・債券とも自国に限って運用しがちな傾向(ホームバイアス)があり、全天候型ポートフォリオもそうなっています。

現状、米国株式はかなりの割高水準となっています。
長期運用において、手数料がきわめて低い全世界株式ファンドが利用できる環境では株式・債券ともに世界分散を図った方が賢明です。
3つの投資信託を組み合わせることで、日本版全天候型ポートフォリオを構築できます。

30%:eMAXIS Slim全世界株式(3地域均等型)
55%:ひとくふう世界国債ファンド(為替ヘッジあり)
15%:ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


全天候型ポートフォリオの威力を“バブルシナリオ”で確認

全天候型ポートフォリオが株式ポートフォリオと比べてどのような値動きを示すのか、例としてバブルシナリオを想定してみます。

バブル経済が発生し、株式:+100%(2倍)・債券:-20%・ゴールド:0%というように価格が動いたとします。



全天候型ポートフォリオはバブル期にかけて総資産を19%成長させました。
株式ポートフォリオは株式のみなので100%成長、つまり2倍です。

その間に得られた労働収入から各資産につき資金を元本の20%追加したうえで、全天候型ポートフォリオはリバランスを行います。
その後バブルが崩壊し、資産価格が現在の水準まで戻ったとすれば、どうなるでしょうか。

株式ポートフォリオは資産を半分に減らしますが、全天候型ポートフォリオは-1.2%で乗り切り総資産は株式ポートフォリオを20%以上上回ります。

しかも債券・ゴールドを保有しているので、この先株式の再下落があれば積極的に債券・ゴールドを株式に振り替え、リターンを増幅することができます。
このように全天候型ポートフォリオは防衛力があり、運用の自由度も高いのです。

資産を大きく増やしたい人はさらなる“行動プラン”を

全天候型ポートフォリオに弱点がないわけではありません。

たとえば2009年3月から今年、2020年2月まで長く続いた一本調子の株式上昇相場のような局面では、債券を多く保有する分全天候型ポートフォリオは株式ポートフォリオに比べ大幅に成績が劣ってしまいます。
全天候型である分、攻撃力に特化した投資手法が報われる場面ではどうしても差がつきます。

すでに多くの資産をお持ちだったり、ほどほどの運用成績で満足される方にとって全天候型ポートフォリオの安心感は何物にも代えがたい価値があります。

しかしながら、できるだけ資産を大きく増やしたいとねがう私を含む一般庶民には、ここで事前に“行動プラン”を立てておく必要が出てきます。
債券・ゴールドから株式へ、大胆に乗り換えるための手順書を作っておくわけです。

どの国の、どんな企業の株を買うか。
株式市場がどうなった時に買うか。
株価の評価(バリュエーション)がどの程度の水準に達した時に買うか……

日々、株式市場を目を皿のようにして観察するようになると、雰囲気にのまれた売買となり往々にして失敗します。

行動プランは必ず、事前に明文化しておかなければなりません。
行動しながら修正し、よりよい手順書を作り上げていく方が現実的です。
“行動プラン”の作成については、改めて機会を設けることができればと思います。

新型コロナウイルスの収束経路は一向に見えていません。
まずはしっかり防御の構えをとり、来たるべき“薄日”がさす日をともに待ちましょう!

人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

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