米国の投資情報サイト“Seeking Alpha”に掲載された記事を紹介します。
著者は独立系の市場ストラテジストで、1万7000人に迫るフォロワーがいます。
市場のトレンドとは異なる、いわゆる「逆張り」派として知られます。

The Difference Between Investing And Speculation (10 Investing Rules)
投資と投機の違い(10の投資ルール)

1930年代のベンジャミン・グレアムから今を時めくレイ・ダリオまで、市場の偉人たちの言葉を引きながら、「投資と投機の違い」に迫る記事です。

この中で、一般に広く通用している「投資の定義が揺らいでくる局面」があるということが語られています。
抜き出し、考えていきます。

そもそもなぜ「投資」と「投機」を分けるのか



「投資」は良いこと。
「投機」は悪いこと。

一般的な資産運用においては、このような理解があると思います。
「投機」を戒め「投資」を勧める言葉はそこかしこに転がっています。

「投資」は資産形成。
「投機」はばくち。
このような分け方がされる場合もあります。

以前監修・執筆した書籍「マンガでわかる最強の投資術」において、僕は「プラスサムゲームが投資、ゼロサムゲーム・マイナスサムゲームは投機」であると書きました。



歴史を見れば、株式市場にある資産は、その総額は時間の経過につれて増えてきました。

このような「合計がプラス」になる場所で行う運用はプラスサムゲームになります。
知恵を絞らずとも、市場平均インデックス長期投資を行うだけで、市場の成長分を自分が投資している比率に応じて受け取れるからです。

一方、同じ株式市場でも数時間・数日単位での売買はマイナスサムゲームとなります。

株式市場にある資産の総額は数時間・数日単位で着実に増えていくわけではありません。

その意味ではプラス・ゼロ・マイナスが不安定なゲームですが、投資家が投資する際には証券会社に手数料を支払う必要があることを考えると、投資家同士が食い合うマイナスサムゲームになっていることが多いわけです。

「兼業個人投資家が資産形成を行うには、『投機』を避けて『投資』を行うべし」と言われるのは、このような文脈からです。

長期投資と言っても対象が個別の企業である場合、業績の成長具合によっては収益の分け前を長期・安定的に得られない可能性があります。
一企業の不確実な未来に賭けるという意味では「投機」にあたるかもしれません。

分散投資を行えばその可能性は減っていきます。
分散投資の1つの理想形が市場平均ポートフォリオです。

この意味で、インデックス投資は「投資の中の投資」であると言えます。

ところが記事をよく読むと、インデックス投資すら投資に値しない瞬間があることを、複数の偉人のコメントが裏付けていました。

「投資の中の投資」が「投機」に陥るとき

①常軌を逸した価格のさらなる高進に賭けること
「投機の芸術」(1930)を書いたフィリップ・キャレットは、「動機」が投資と投機の違いを決定するテストであると信じていました。キャレットは投資家をビジネスの経済学に、投機家を価格に結び付けました。キャレットは、「価格の変動による利益を期待した証券または商品の購入または販売と定義することができます」と書いています。

市場を追いかけることは、投機の最も純粋な形です。これらの資産に支払われる価格が割引価格で公正価値で販売されているかどうかを判断するのではなく、単に価格が上昇することに賭けるだけです。

記事にはこうあります。

株式や債券といった資産の価格が、本来的な価値を超えて上がってしまっている場合、そこからさらなる上昇を求めて資金を投じることは「投資」ではなく「投機」である、というわけです。

先ほど書いた投資と投機の区分け、プラスサムゲームとゼロサム/マイナスサムゲームという枠組みで考えてみましょう。

株式長期投資がプラスサムゲームで投資であるというのは、株式市場全体の富が経済成長と歩を揃えて増加していくことがその根拠になっています。

期待される成長分を織り込む以上に、市場参加者の思惑だけで大幅に価格が上昇してしまった場合、その価格はプラスサムゲームというゲームの「自然な状態」との間のリンクが切れてしまっています。

1株当たり利益の15倍程度に株価が過去の平均的な価格であるところ、30倍を超えて株価が上昇していくような事態になったとき、その時点で株を買うことは、プラスサムゲームに参加するとはいえなくなってしまいます。

市場参加者の思惑というジェットコースターに、貴重なお金をせっせと乗せているだけです。


同じ現象について、バリュー投資の開祖であるベンジャミン・グレアムは名著「証券分析」においてこう述べます。
投資と投機の正確な定義です。

投資運用とは、徹底的な分析により、元本の安全性と満足のいく収益を約束するものです。これらの要件を満たしていない運用は投機的です。

②「平均への回帰」を忘れること
記事は続いて、著名ヘッジファンドマネージャーであるレイ・ダリオの言を引きます。

投資家が犯す最大の過ちは、最近の過去に起こったことが持続する可能性が高いと信じることです。
彼らは、つい最近に好成績を収めた投資は引き続き良い投資であると決めてかかります。典型的には、過去のリターンが高いということは、単に資産がより高価になり、より良くはなく、より貧弱な投資であることを意味します。

現在の状態が今後も続く、よいものはよいと決めてかかる「外挿」バイアスがあります。
現実は、よかったものは悪くなると考えた方が妥当であるということです。

景気悪化時に生じたガラクタを集めて金に変える、ディストレスト投資で知られるオークツリーキャピタルのハワード・マークスも同様の言葉を述べています。

ルール1:ほとんどのものは循環的であることが証明されます。
ルール2:他の人がルール1を忘れたときに、利益と損失の最大の機会が生まれます。

レイ・ダリオと同様の「市場では永遠に続くもの何もない」認識です。

ウォールストリート・ジャーナル所属の著名金融ライターであるジェイソン・ツヴァイクがこのようにまとめています。
金言と言えるでしょう。

平均への回帰は、金融物理学における最も強力な法則です。
平均以上のパフォーマンスの期間の後には平均以下のリターンが必然的に続き、悪い時期は必然的に驚くほど良好なパフォーマンスの舞台を設定します。

現実的な投資家は、常に「さえない資産」をコツコツと買い続けることに全力を注ぎます。

ここ数年、去年、今年に調子のよかった資産がよい成績をあげ続けるという期待は、いずれむなしく終わるものです。

結局、インデックス投資が「投機」に陥るときはいつなのか?

2017年に楽天投信よりデビューした、バンガードETFに投資する低コストインデックスファンドシリーズ「楽天バンガード」の資産流入について調べてみました。

新興国株式ファンドがデビューした2017年11月17日を起点に、2年間の資金流入をまとめた表です。



ワンストップで全世界株式分散投資が完結できる全世界ファンドをはるかに超え、米国株式ファンドが資産を集めていることが一目でわかります。

2年間で全世界株式ファンドは285.32億円、米国株式ファンドは636.93億円を集めました。
対して、新興国ファンドへの資金流入は低調です。

一般的な株式ポートフォリオにおいて米国株式より新興国株式の割合ははるかに少ないため、資産総額に大きく差がついていることは不思議ではありません。

しかし、半年ごとの資産伸び率に注目してみると、収益率が好調な米国株式ファンドが資産流入を大きく伸ばし、収益率が低調な新興国株式ファンドは資産流入の伸びを欠いていることがわかります。

半年ごとの収益率が3.8%→2.6%→3.5%→7.2%と好調に推移した米国株式は、資産伸び率も448.0%→140.1%→51.1%→60.4%と非常に好調でした。
対する新興国株式は、米国株式に比べ収益率・資産伸び率とも明らかにさえません。

この間、資産価格を評価する有力な指標であるCAPEでは、米国株式は一貫して30倍付近をうろうろ、一方の新興国株式は12.5倍~14.5倍付近を示していました。

見事に、日本の個人投資家は「よいものはよいと決めてかかる「外挿」バイアス」にとらわれ、「平均以上のパフォーマンスの期間の後には平均以下のリターンが必然的に続く」ことを認識していないようです。

CAPEが30倍を示している米国株式ファンドに資金を投下すること、そして米国株式が約半分を占める全世界株式ファンドに資金を投下することは、投機ではなく投資であるといえるでしょうか?

結局、インデックス投資が「投機」に陥るときはいつなのか?
今でしょ!


米国株式の取り扱いについては、いぜん詳しく記事にしています。
参考にしてみてください。

博士の異常な提案 または私は如何にして米国株式を心配して心配して心配するようになったか ドクター・ハスマンは米国株式の「興味深いが、どこへも行けない旅路」を語る

米国株式のこれから30年は、これまでの10年とはだいぶ違うようです

米国金融市場研究の重鎮が「現在進行中のバブル」への対処を語る バブル、バブル、労苦 andトラブル

どこかで非常ベルが鳴っている 米国株式からの逃避手段


人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

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