以前、あおぞら投信の投資信託「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド」を詳しく紹介しました。
「投資を科学するファンド」が市場平均に「世代交代」を迫る あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド
クロウトならだれでも知ってる、あの「究極の長期投資ファンド」を自作しよう!

全世界の上場株式に徹底的に分散投資し、小型株・割安株・収益性の高い株の割合を高めることで、いまや個人の資産運用におけるデファクトスタンダードとなっている「市場平均インデックス投資」を超える可能性のある商品と見込み、力を入れて解説しました。

僕自身も、運用する「格差縮小ファンド」の固定ポートフォリオに組み入れつつ、近い将来あると踏んでいる下落相場で積極購入するファンドの候補に入れています。

・「小型」「割安」「高収益性」といった、学術研究で有効性が確認されている指標(「ファクター」)を利用して
・市場ポートフォリオ(市場平均)にシステマティックにツイストを加える低コスト運用で
・長期的に市場平均を上回ることを目指す


当ファンドの運用にはこのような特徴があります。

記事を公開してからまもなく、あおぞら投信の柳谷会長・大久保部長から連絡を受け、ご来訪いただきました。
その際にお話しした内容は3回続きの記事にまとめています。

「あおぞら投信」柳谷会長・大久保部長と1時間半、こってりお話ししました。 ①「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド(愛称・てつさん)をなぜ知ったのですか?」
「あおぞら投信」柳谷会長・大久保部長と1時間半、こってりお話ししました。 ②「一般の投資家には、『能書きばかり多い投信だなぁ』と思われてしまうのではないですか?」
「あおぞら投信」柳谷会長・大久保部長と1時間半、こってりお話ししました。 ③「金利がつぶれていく世界で、資産運用はどうなるのでしょうか?」

ところで、当ファンドの運用を実際に行っているのは、米国に本社をおく運用会社「ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ」です。

米国や日本を含め世界中に拠点をおきグローバルにリサーチ・トレーディング・機関/個人投資家へのファンド販売を展開、運用資産は約65兆円(2019年9月末)にのぼる大手運用会社です。
ディメンショナルは「次元」という意味です。

当ファンドの組成・販売を行うあおぞら投信の方々とお会いしてからまもなく、今度はディメンショナル・ジャパンからもご連絡をいただきました。
情報交換をしたいというのです。

僕のほうから出せる情報など何もないので、大丈夫かな?と思いましたが……
グローバル運用を支えるポートフォリオ・マネージャーに徹底的にお付き合いいただいた結果、なかなか興味深い2時間となりました。

株式市場を舞台に展開される「儲けたものが正義」の金融ヒリヒリワールドとはまったく異質の価値観がドライブする、究極の「淡水の世界」にふれる面白さがありました。

一体なんのこっちゃ?
続きます。

ディメンショナルの運用とは?



今回はディメンショナル・ジャパンの方々とのお話に行く前に、ディメンショナルの運用手法と哲学について、ほんのちょっとだけ一緒にお勉強していきましょう。

①ディメンショナルの成り立ち
ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズは1981年、米国で創業されました。

現・会長であり創業者の一人でもあるデイヴィッド・ブースは、米国の名門シカゴ大学大学院でファイナンス、つまり金融を専門的に学びました。
1969年のことです。

当時、彼がティーチングアシスタントとしてついたのが株式市場研究の第一人者であるユージン・ファーマ。
後にノーベル経済学賞を受賞することになる、ファイナンスの大家です。
後年、ファーマをアドバイザーに迎え、デイヴィッド・ブースは学術研究を「実装する」運用会社を創業します。

機関投資家に当時は敬遠されていた「小型株」の運用手法を提供することから、ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズは始まったのです。

②ユージン・ファーマの「みんなの意見はあんがい正しい」効率的市場仮説
ユージン・ファーマは「資産価格の実証分析に関する功績」が讃えられ、2013年にノーベル経済学賞を受賞した世界的に著名な学者です。

彼が提唱した「効率的市場仮説」は、現在隆盛の極みにある「インデックス投資」の基礎をなすものです。
効率的市場仮説は、金融市場をこのような場所として扱います。

いわく、

①金融市場では各人各様の目的を持った投資家による取引が行われることで「その時点で利用できるすべての情報が織り込まれた値付け」が行われている。
②したがって、その先の市場価格がどう動くかは誰にも予測できない。だってすべての情報が織り込まれた値付けなのだから……。
③というわけで、投資家が「銘柄の選定」や「売買のタイミング」から市場の平均以上の成績を長期的に獲得し続ける、つまり「市場の値付けを予測できる」という立場をとることで利益を得続けることはできない。


一読して、何というか……②と③の接続が強引という感じがしませんか?

金融市場では、金儲けの精鋭たちによる世界的な・情報処理と価値観が反映された・判断の集積/交換が・ミリ秒単位で連なり・合理的な値付けが形成されていく……というところまではまあよいでしょう。

ただ、多数が間違って少数が正しいことも当たり前にありますよね。
それでも地球は回っている。
こう言って蟄居逼塞しながら亡くなったガリレオ・ガリレイのことを、僕らは皆知っています。

たしかに、1つ1つの銘柄、1秒単位の値付けが必ず正しいというわけではありません。
というか、そもそも「値付けが正しい」と言うには基準がなければ判断できません。
リアルタイムに正しい値付けの基準となる情報など、世界のどこにもないのです。

結局、どちらが正しいかは実証研究で裏付けられることとなりました。

市場でつけられた値付けを忠実に追っていく市場平均インデックスファンドを、「運用者による正しい値付け」を形にしたアクティブファンドが長期(たとえば10年)で超えていくことは、ほぼできていません。
世界中で、およそ9割がたのアクティブファンドがインデックスファンドに負けています。

価格を発見するツールとして、市場はもっとも「効率的」なのです。

③「マルチファクター」はマルチビタミンのように
その後、ユージン・ファーマはケネス・フレンチとの共著で、株式のリターンを5つの切り口(式)で説明する論文を発表しました。

「市場ポートフォリオ」
「企業規模」
「相対価格」
「収益力」
「投資」

以上の5つの切り口を用いて構築された「5ファクター・モデル」は、投資運用業界で個別銘柄やポートフォリオの分析・構築に広く利用されています。

これらのファクターは、たとえて言えば運用成績における「栄養素」のようなものです。

キャベツにはビタミンCが豊富に含まれているけど、A・B・D・Eはほとんど含まれていない。
うなぎにはビタミンA・B6・B12・D・Eが豊富に含まれている。

……ってことは、キャベツとうなぎを組み合わせて食べたら相性がいいよね!
みたいなノリで、個別銘柄やポートフォリオの分析を可能にするのがファクターです。

5ファクター・モデル以前は、「市場ポートフォリオ」を1つの基準とし、そこからの距離感を個別銘柄やポートフォリオ分析の出発点とするという世界でした。
でした、というか現在でもポピュラーな手法です。

・太りたいなら(儲けたいなら)メシを一杯食え(市場ポートフォリオ以上にリスクをとれ)
・細くてよければ(値動きを抑えたいなら)メシを控えろ(リスクを減らせ)
くらいの感じです。

5ファクターに拡張されることで、より高い運用成績を求めるためのポートフォリオを、より高い精度で構築する道が拓かれました。

夜目が効くようにビタミンAを取ろう、疲労回復にB6・B12を取ろうと、細かく調整することができるようになったというわけです。

こんな具合に、効率的市場仮説に基礎をおく「市場ポートフォリオ」を拡張した5ファクター・モデルを実用に落とし込んだものが、ディメンショナルが運用する一群のファンドです。

ディメンショナルが考える「どんな環境にも耐えうる、しなやかで健康的でパフォーマンスのよい身体」になるように、マルチビタミンを的確に配合したファンドが「あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンド」であるということになります。

僕が以前のブログ記事で、
「投資を科学するファンド」が市場平均に「世代交代」を迫る
と書いたのは、こういうことです。

というわけで……お勉強お疲れ様でした!

ディメンショナルの方々と、僕が話したかったこと

僕がディメンショナルの方々とお会いする前の知識は、ここまでまとめてきたことを大まかにつかんでいるというくらいでした。

ただ、お会いすると決めた時点で、聞きたいことは明確でした。
大きく2つです。

1つは
そもそもファクター投資というのはいったい何なのか?
ということです。

ディメンショナルはファーマ=フレンチの5ファクターモデルを活かした運用をしている、という知識はもっていました。

が、そもそも、ファーマ=フレンチの2人は運用をするためでもなかろうに、なぜそのような研究をやっているのか? 目的は? という疑問があったのです。

さらに、ディメンショナルはなぜ学術研究を活かした運用に「商品性」があると思ったのか? という点も疑問でした。

僕は今まで、そしてこれからも「割安なものを実績のある手法で淡々と買っていく」という方法で市場に参加し、長期的に儲けていきたいと考えています。

一方で、市場というものは、デイトレーダーや相場の操縦屋といった己の腕と胆力に恃み市場から金をぶんどる山賊や、巻紙にしたためた果たし状を送り付けて懐柔した顧客の資産を回転させ、手数料をはぎ取る金融業界の悪鬼が棲む魔境であることも知っています。

このような両極に立つ市場の住人、さらにはいわゆるインデックス投資至上主義ともまた異なる立ち位置で、ディメンショナルは市場を認識しています。

市場の有効性を確信し、そのうえでよりパフォーマンスが高くなるチューニングを淡々と、システマティックに加えています。
このチューニング手法が、ファクター投資なのです。

もう1つは
ディメンショナルは日本で個人投資家に売る気はあるのか?
ということでした。

次回以降で詳しくふれますが、ディメンショナルのファンドは一般投資家には「とても買いにくい」と僕は思っています。

この点は以前、あおぞら投信・柳谷会長とお話した際にもふれました。
「あおぞら投信」柳谷会長・大久保部長と1時間半、こってりお話ししました。 ②「一般の投資家には、『能書きばかり多い投信だなぁ』と思われてしまうのではないですか?」

上でお勉強したようなことがおぼろげにも理解できないと、腰を据えてこのファンドに投資しようと思うのはむずかしいです。
そして、腰を据えて投資しないとこのファンドの真価を知ることはできないのです。

あおぞら投信では、地方銀行での店頭販売などのチャネルを強化し、対面できちんと説明した上での販売を心がけ、成果を上げていると聞きます。

ただし、当ブログの主な読者である兼業個人投資家の多くが利用するネット証券チャネルでは、パブリシティの不足が仇になってか、販売ランキング下位に甘んじています。
2019年11月5日現在で、SBI証券で取り扱いのある「国際株式」696ファンド中353位です。

このことをふまえて、「学術」と「一般投資家」の接点を探ることが今回の会合の肝だと僕は思っていました。

なので、冒頭から若干いじり気味に
一般の個人投資家が理解して購入するには、あおぞら・徹底分散グローバル株式ファンドは、日本で一番むずかしい投資信託ですよね……!
と切り出したのです。

その時、部屋のなかが一瞬で真空になりました。
誰も笑ってない。
息ができない。

そっと下を向く僕の様子を見て、シニアマネージャーの竹山氏が助け舟を出すようにおもむろに苦笑を浮かべてくれました。

世界で65兆円を集める「ファクター投資」をひもとき、
日本でディメンショナルのファンドを売る道筋を探り、
金利がつぶれていく世界への市場からの答えを聞く、対話。

かように濃厚な2時間は、戸惑いと苦笑のマリアージュから始まったのです。

※今回の来訪に関して、一切の金銭や便宜の供与はありません。

人生を豊かにする「投資」の専門家
日野秀規でした。
ありがとうございました!

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